第18章 駅前店舗につないだ夢
きもの英・創業物語
~ 聞き書き・武田豊子一代記 ~
第18章 駅前店舗につないだ夢
これまで、1年以上の歳月をかけて母の一代記とでもいうべき「きもの英」の歴史をたどってまいりました。といっても、社史という意味では、自社ビルを竣工した昭和47年までしかお話しておりませんでしたね。
父と母、社員の夢をのせ、華やかにオープンした自社ビル店舗は、その後も多くのお客様にお運びいただき、愛され親しまれてまいりました。しかし、時代が進みあらゆるものにスピードや利便性が求められるようになるにつれ、駅から徒歩10分以上という距離が、ニーズにそぐわなくなってきているのではという実感が増してまいりました。さらには、歳月を重ねるほどに「着物離れ」が進んできたのも事実です。気がつけば、商売を始めた頃のように、出すもの出すものが飛ぶように売れた時代ではなくなっていました。そして昭和の終焉とともに、英もまた、ひとつの時代を終え、新しい時代を迎えたのです。
その象徴が、飯田橋駅前の新店舗です。もっと駅に近い場所にと、店舗移転を考え始めたのと時を同じくして、飯田橋駅の再開発が始まっていました。川に材木が浮き印刷工場が軒を連ねる従来の風景はまたたく間に一変し、高層ビルが立ち並ぶ近代的な街へ。その一角に、思いがけないご縁を得てテナントとして新たな店舗を開くことになったのです。新時代を担う店舗は、理想通りの駅前、主要幹線道路にのぞむ好立地を活かすべく、全面ガラス張りで清潔感のあるオープンな空間を実現しました。みなさんにもおなじみのあの外観は、当初よりほとんど変わっていません。その後も飯田橋は目をみはる変貌を遂げていき、今ではJR、地下鉄東西線、有楽町線、南北線、大江戸線、5線が乗り入れる一大ターミナルに。店舗オープン後、地下鉄の出口が店のま横にでき、雨に濡れずにおいでいただけるという願ってもない好条件も満たされました。そのフットワークのよさも幸いし、今では関東はもちろん、地方からお運びくださるお客様も大勢いらっしゃいます。お茶の方、踊りの方、芸能人の方、洗える着物を愛好するあらゆる方が気軽にのぞいてくださる店となりました。
一方、昭和47年から64年まで、17年の歳月を過ごした思い出深い店舗は、今も夢の残像をとどめ本社ビルとして機能しております。多くの営業マンたちが、今も毎日、ここからお客さまのもとに出かけています。